行政プロポーザル事業・ミシュラン獲得|幼なじみコンビが10年で仕掛けた地域活性化の食ブランド・食イベントプロデュース
水本と、その幼なじみである吉田稔氏(「鮨 よし田」店主)は、2人の故郷である和歌山県で、10年間にわたって地域活性化の実績を積み上げてきました。
その原動力は、なんといっても吉田氏の職人としてのプライドと、現場を支え続けるひたむきな行動力です。
「家族や友人たちがいる故郷が、気持ちよく過ごせる、楽しい町であり続けてほしい」。
故郷への思いと、「つくるならとことんよいものを」という2人のこだわりから生まれたイベントは、どれも参加者の笑顔にあふれるものばかり。
吉田氏の情熱と実行力、そして水本の企画力が掛け合わさることで、地域の関係人口も増えつつあります。
今回は、人と地域を巻き込む地域活性化のノウハウを、事例とともに公開します。
食を通じた地域活性化「水本と若松家店主・吉田、挑戦の始まり」
地域活性化への取り組みは、僕と吉田、2人の開業から始まったと言えます。
僕が開業したのは1997年。ワインバー「Vin de Kitchen」を、大阪・心斎橋でオープンしました。
当時は自らお店に立っていましたが、その後、食ブランドと食イベントプロデュースへと仕事のスタイルを変え、「わだ家」をはじめ数々の飲食店のプロデュースを担いました。



一方の吉田は、大阪・枚方の鮨店へ弟子入りして確かな修行を積んだのち、暖簾分けを経て1998年に和歌山・上富田町で、「鮨処 若松家」をスタート。同じ時期に独立という道を選んだ身として、吉田の決断力の大きさを実感しています。
若松家が軌道に乗ったタイミングで大衆食堂「口熊野食堂」も開業しました。
ところが、大衆食堂は苦戦が続いていました。そんな時、吉田に相談を受けた僕は、ラーメンを目玉メニューとして提案。
“ラーメンが好きすぎる鮨処の店主が、魚の骨やアラで出汁をとり、それをスープにしてラーメンを開発した”というストーリーと、何より吉田自身が試作を重ねて磨き上げた味が評判を呼び、口熊野食堂のラーメンは大人気になりました。
今ではラーメン屋へと業態を転換し、醤油と豚骨スープに鶏ガラを加えた新しい和歌山ラーメン「口熊野らーめん」や、魚介ベースのトリプルスープでつくる「魚○(うおまる)らーめん」で人気を集め、行列ができるラーメン屋へと、吉田自身の努力で成長させています。
こうして僕と吉田は、仕事でも関わりあっていくようになります。

人を惹きつける発想と企画「3日間で3万5,000人を動員した泡ビーチ」
地域活性化の取り組みとして最初の大きな仕掛けは、白浜町合併10周年を記念した2016年のイベントでした。
白浜町のプロポーザル(公募)に提出した企画が通り、吉田と僕、そしてキョードー大阪が主催を務めるかたちで開催が決まりました。この規模のイベントを無事にやり遂げることができたのは、吉田の支えがあったからこそです。
企画担当の僕が提案したのが、「泡ビーチ in 南紀白浜」。
たくさんの泡にまみれながら音楽とダンスを楽しむ地中海イビサ島の名物・泡パーティーを、白浜町で再現する企画です。
イベント期間の3日間で3万5,000人、文字通りたくさんの方にご参加いただくことができました。
発想の原点は、海開きでした。水着での海開きなら、多少は汚れてもいいし、はしゃげます。
そういう陽気で前向きなイメージをふくらませていくうちに、泡パーティーにたどり着きました。
当時、クラブやディスコでも泡パーティーが流行し始めていましたが、屋内ではふんだんに泡を使うわけにはいきません。
浜辺なら、心おきなく泡まみれになれます。べちゃべちゃになっても、そのまま海に飛び込めばOK。そんな体験をしてもらいたいと思ったんです。
泡の噴射機は、白浜観光大使のブラックマヨネーズ・吉田さんや、BENI、まこみな、アフロマンスといった芸能人が登場するステージ上に設置。
ステージの盛り上がりにあわせて、客席に泡を吹き付けられるようにしました。
ちなみに僕たちが使った泡は99%が水分で、人にも自然にも優しいものです。

食品衛生法とイベントマナー「テーマに基づく座組で安心をつくる」
人が集まる場所には、食も必要です。
泡ビーチの会場では、“食ビーチ”の名前で食ブースを設置しました。
地域の若者を中心に約10社が出店してくれて、スペアリブやまぐろのカツ、唐揚げ、ジェラートやかき氷を提供。
吉田も主催の仕事をこなしながら麺家口熊野食堂として出店し、自ら和歌山らーめんをふるまってくれました。どんな場面でも全力で取り組む姿勢が、吉田らしさだと感じています。
イベントでは、料理のおいしさだけではなく、安全も同じくらい重要です。
食中毒防止の観点から数百人分のフードを仕込む時のコツや考え方を伝え、万が一にも問題が起こらないように指導することはもちろん、当日も徹底したチェックを行いました。
そのため僕たちはイベントごとにパトロール隊を組織します。
別の記事でご紹介した「はらぺこCIRCUS」をはじめとする食が主役のイベントでは、出店者の調理状況や衛生チェックがパトロール隊の主な役割です。
食ビーチは、泡とステージがメイン。
このように、食以外が主役の場合は、パトロール隊の役割も少し変わります。
ステージがメインのイベントでは、場を盛り上げるツールとしてお酒を用意することも多くあります。
お酒を提供しているイベントでパトロール隊にお願いしているのは、お酒を飲みすぎるお客様が出ないように目を配ること。
調理状況と衛生チェックももちろん大切ですが、お酒を出すイベントの場合は、食品衛生法に加えて、イベントマナー面でのパトロールも重要です。
会場には、お酒を飲む方もいれば、飲まない方もいます。
全員が安心・安全に楽しめるように、イベントによってスタッフの座組は細かく変更しています。これも、長年イベントを運営してきた僕たちが大切にしている考え方です。
“土地ならでは”の体験をつくる行政プロポーザル「上富田スポーツセンターのカフェ事業」
「泡ビーチ in 南紀白浜」から3年後の2019年。
吉田から、「和歌山県上富田町で、飲食事業のプロポーザルが始まる。チャレンジしてみないか」との打診がありました。地域の情報にいち早くアンテナを張り、声をかけてくれる吉田の存在は、僕にとって本当にありがたいものです。
上富田町には、上富田スポーツセンターという施設があります。
プロポーザルの内容は、その敷地内の空き地で飲食事業をしてくれる事業者を募集するものでした。
場所を見学させてもらったところ、その空き地には立派なヤマモモの木がありました。
上富田スポーツセンターの方にとっては、珍しくない木なのでしょう。
担当さんは、「ヤマモモの木は切って、スペースをつくります」とおっしゃいました。
ヤマモモは、苗から育てても、実ができるまでに4~5年かかります。
なんてもったいない。そう思って、すぐさま「切らないでください」とお願いして、そのヤマモモを活用する企画を練りました。
閃いたのは、ヤマモモを活かしたツリーハウスのあるカフェ。
ツリーハウスに上って手を伸ばすと、ヤマモモを摘むことができます。
自分で摘んだヤマモモは、ヤマモモドリンクにもできる。
“もとからある資源を活用して、土地ならではの体験ができる”ネタは、メディアにも受けがよいので、お店の広報・宣伝の点でもメリットがありました。

カフェのもう一つの軸は、低脂肪・高たんぱくのフードメニューです。
野球もサッカーも、ラグビーもできるスポーツセンター。
そこにカフェをつくるなら、スポーツを楽しむ人に喜んでもらえるメニューを開発するのが自然な流れです。
こうした点から、吉田と一緒に「スポーツを楽しむ人が本当に利用したくなる食事」を考えました。それがカフェのもう一つの軸、低脂肪・高たんぱくのフードメニューです。
食事の量も自分で調整できるよう、低脂肪・高たんぱくのバイキングスタイルを提案しました。
スポーツといえば、プロテインも欠かせません。
『アスリートは、筋肉を喜ばせるためにプロテインを使う。僕たち料理の世界の人間は、胃袋を喜ばせるのが仕事。それなら、どんなプロテインの使い方があるだろう』と考えて、紀州梅肉を使った「紀州梅肉風味のおかずプロテイン」を開発しました。

使い方はシンプルです。
ひじきの炊きものや、イワシの煮つけなど、隠し味に梅を入れたい料理にちょっと加えたり、ドレッシングの材料にしたり。
調味料として手軽に使える味にしました。
ただ、バイキングとおかずプロテインだけではお客を呼びづらいので、スポーツ大会の打ち上げやアウトドアの締めくくりにぴったりな、テラスで楽しめるバーベキューもメニューに加えました。
ヤマモモとスポーツを軸にしてカフェの企画を練り、そのカフェの運営方法に加えて、安全管理・食品衛生対策、従業員の配置体制、クレーム・要望対応、廃棄物回収・処理、収支計画なども明記した行政向けの企画書を提出したところ、企画は無事に採択されました。
そして、シンボルツリーのヤマモモから名前をとった「ベイベリーカフェ」が誕生したのです。このプロポーザルの実現にあたっても、行政との調整を丁寧に進めてくれた吉田の粘り強さが助けになってくれたと感じています。
オープニングレセプションのコンセプトは、食と音楽とアート。
地域の方々を招待して、アーティストやDJ、流しと呼ばれる音楽家たちのパフォーマンスで盛り上げました。
ヤマモモを摘めるツリーハウスと、低脂肪・高たんぱくのフードメニュー。
際立った個性は、お客様のワクワク感をかきたてます。
お客様の笑顔をイメージしながら個性を尖らせていくと、予算もふくらんでいくのが困りものですが、やるならお客様も自分も納得できる成果をつくるのが吉田と僕のポリシーです。
この頃は、熱意があふれすぎて予算をオーバーし、超えたぶんを2人で負担したこともありました。吉田は損得を抜きにして良いものをつくることを選ぶ、そういう人です。
吉田が地域との信頼関係を築き、僕が企画を設計する。
幼なじみの絆で息の合った提案ができたことで、ベイベリーカフェは地域に新しい価値を生み出す場所となりました。
ミシュラン一つ星獲得の戦略「『鮨 よし田』のリブランディング全手法」
僕が企画を立てて、吉田は企画を実現するために実行委員会を組織する。
いつも現場で汗を流してくれる吉田には、ひとつの悩みがありました。
吉田が経営している「鮨処 若松家」の当時のお客様は、刺身などを肴にしてお酒を飲み、鮨を食べずに帰ってしまう方がほとんどでした。
「ご来店いただけるのはありがたい。でも、お客様にもっと鮨を食べていただきたい。もっと鮨を握りたい」
その言葉を聞いて、僕は改めて考えました。
吉田はもっと評価されるべき職人だ。
最高のネタを仕入れ、その価値に見合った価格で鮨を提供し、お客様にも本当に美味しい鮨を楽しんでもらう。
その環境をつくるには、店そのものを変える必要がある。
そこで僕は提案しました。
「ミシュラン一つ星を目指そう」
単に有名になるためではありません。
吉田が職人として納得できる仕事を続けるための環境をつくることが目的でした。

ミシュランへのロードマップ「星を取る3つの基本法則を完全公開」
ミシュランに選ばれるお店には、一定の法則があります。
僕の提案に頷いた吉田は、覚悟を決めて、それらを一つずつ実践しました。ここから先の道のりは、吉田自身の努力の賜物といっても過言ではありません。
法則1.ミシュランを獲得しているお店の店主さんたちと交流を深める
新しいお店を開拓する時、ミシュランの審査員は、既存のミシュラン店主たちに意見を聞く傾向があります。
審査員のリストに入るには、ミシュランを獲得している店主さんや、いずれ星を取ると思われる店主さんの口から、「和歌山なら『鮨 よし田』だね」と推薦してもらう必要があるわけです。吉田は、こうした店主さんたちとも誠実に関係を築いていきました。
法則2.店主とお客様との距離が近い
鮨店の場合、店主とお客様との距離が近いほど、ミシュランに近づくといわれています。
その理由は、鮨が“直前料理”の最高峰だから。
シェフが調理をしてギャルソンが運ぶフランス料理とは異なり、鮨は握った次の瞬間には、お客様の手に渡ります。
店主とお客様との距離の近さは、握りたての美味しい状態で鮨を提供できている証です。
実際にミシュランを獲得している鮨店はL字型のカウンター席のみのお店が多く、テーブル席はないほうが星を取りやすいと考えられています。
また、L字型のカウンター席は、店主がお客様全員に目を配りやすい席割りでもあります。
カウンター席だけの内装には、「自分が責任をもって、おもてなしをします」という店主の使命感もこめられています。吉田もまた、この姿勢を体現している一人です。

法則3.ミシュラン獲得店、御用達の特製冷蔵庫を使う
ミシュランのお店御用達の冷蔵庫は、見た目・性能ともに優れています。
冷蔵庫も内装の一部ですから、この2つを兼ね備えた製品を選ぶことが大切です。
ミシュラン御用達の冷蔵庫を取り扱うオーナーさんは、自分が認めた人にしか冷蔵庫を売らない、たいへんな目利きの人でもあります。
この冷蔵庫を持っていること自体が、店の格の証明でもあります。
そして、ミシュランのお店でよく使われているということは、オーナーさんは、ミシュランの店主さんたちと交流している、ということです。
法則1と同じで、オーナーさんと親交を深めれば、ミシュランに関わる人たちとのご縁もでき、名前や店名を覚えてもらいやすくなります。
商圏の設定や仕入れルートなど、基本法則のほかにもおさえておくべきポイントはたくさんあります。内装を変える場合は、ある程度の投資も必要です。
僕を信じて、決して手を抜くことなく全てに取り組んだ吉田は、晴れて「ミシュランガイド和歌山2022 一つ星」を獲得。これは僕の力ではなく、吉田自身が積み重ねてきた努力と職人としてのプライドが実を結んだ結果です。
県外からもたくさんのお客様が訪れる予約困難な名店の店主へと成長し、吉田は毎日、自分が心から納得できる鮨を握り続けています。

地域活性化10年の集大成、1日5,000人規模のフェス企画が進行中
僕と吉田は、ただの仕事仲間ではありません。

子どもの頃から一緒に育ち、同じ景色を見てきた幼なじみです。
だからこそ、お互いに遠慮なく意見をぶつけ合えますし、「もっと良くできる」と思えば、とことんやり抜きます。
吉田には地域の人から信頼され、人をつなぐ力があります。行政や事業者、地元の仲間との関係を築き、現場で汗を流しながら形にしてきました。僕は企画を考え、ブランドやイベントの方向性を描く役割ですが、それを地域に根付かせ、多くの人を巻き込んで実現してきたのは吉田です。

2026年12月にも、幼なじみコンビで地域活性化の食イベント「マローネフェス」の開催を予定しています。
きっかけは、僕たちの同級生のお店が、50周年を迎えること。
そのお祝いに、全国の名店や、開催地である上富田町の皆さんを巻き込む企画を煮詰めているところです。

「家族や友人たちがいる故郷が、気持ちよく過ごせる、楽しい町であり続けてほしい」という2人の原点を大切にして、吉田とともに、1日5,000人規模のフェスの実現をめざします。